展覧会
イダキへのいざない: ディジュリドゥとオーストラリアの音。
ディジュリドゥは、オーストラリアを象徴する音のひとつです。
名高く、親しまれてはいても、私たちは、この楽器についてあまり多くのことを知りません。
今に至るまで、ディジュリドゥに関する大がかりな展覧会は開催されたことがありません。歴史的かつ現代のディジュリドゥの、世界的に重要なコレクションを有する南オーストラリア博物館では、その担い手の責任を果たしたいと願っていました。しかしそれは私たちが語るストーリーではありません。これはヨルングのストーリーなのです。
そこで私たちは初期に戻り、その意味や、イダキの楽器を知り、この文化を守ってきたヨルング族の人々の持つパワーを探っています。
2016年、私たちはヨルングの人々、特にイダキに関する世界で一番の権威者、ジャルー・グルウィウィ氏にご協力いただき、アーネムランドのユーカリノキの森林で過ごし、このストーリーの共同監督にあたりました。この展覧会では、ジャルー氏と彼の家族がこの楽器とそのパワー、そしてヨルングの生活におけるその重要性についてご紹介します。その中で、ジャルー氏たちは、この典型的なオーストラリアの楽器固有の文化的で音楽的な起源、およびそれが私たち全員に与える意味について説明してくれます。
この展示会は、 南オーストラリア博物館がこのコレクションを用いる方法のほか、ストーリーの伝え方、現存するアボリジニの知識と人々を祝う様式において大きな転換を示すものとなっています。イダキは、単に展覧会にとどまりません。博物館自体を転換したように、訪問者をも転換し得る経験です。
左の画像: ラリー・グルウィウィ、ヨルングの男性
ジャルー・グルウィウィとヨルング族
「イダキの音は人々を団結に導く」 ジャルー・グルウィウィ
ジャルー氏は、アーネムランド北東部のヨルング族の一派、ギャルプクランの長老です。
ジャルー氏は、ヨルング族の間でも、世界でも、イダキの音楽的、霊的な伝統における権威であると広く認められています。明るいシャツとミラーサングラスを愛用し、静かな口調に情熱を宿すジャルー氏は、この楽器に始まりこの楽器に終わる、深い和解の世界観を共有することに人生を捧げています。
ジャルー氏は国の宝であり、世界の名声と重要性を備えた人物です。オーストラリア人なら誰しも彼の名前を知っているはずですが、彼の声を聞くことができるのは実に幸運です。この展覧会では、イダキを用いて文化的溝を埋める橋渡し役としての、ジャルー氏の生涯をかけたライフワークを紹介しています。
「ジャルー氏は、ヨルングの人々だけではなく、アボリジニの人々にとって、私たちの外交官であり、かつ大使なのです。私たちはみなダライ・ラマについて語ります。彼には、すべての人々を受け入れ、寛容に導き、私たち自身と相互の共有理解を高める役割があります。ジャルー氏はまさにそのような役割を持つ霊的リーダーです。イダキは彼の声であるとも言えます。」
スティーヴン・ガドラバーティ・ゴールドスミス
アーネムランド北東部のヨルング族の人々は、地球上で最も長く存続する文化的伝統の監督者であり、かつ実践者です。ユーカリノキの森林や、オーストラリア トップエンドの海岸線沿いに生活するヨルング族は、歴史的侵略を受けても、絶やすことなく自身の文化を実践しています。イダキ: ディジュリドゥとオーストラリアの音は、これらの伝統の生きた息吹です。
右の画像: ジャルー・グルウィウィ、ヨルングの長老
聴くことを学ぶ
ジャルー氏のストーリーは勇敢かつ寛大です。
それは、私たちが高く評価しようとしている、文化間の架け橋の役割を果たす、イダキに対する彼のビジョンです。南オーストラリア博物館は、このストーリーの作者ではありません。むしろ、ジャルー氏と他の人々が語る場としてのステージのようなものです。私たちは、彼のビジョンを十分に理解するよう努め、彼自身の情熱と強い信念と一緒にそのビジョンを届けようとしてきました。
私たちも勇気をもって挑戦する必要があったのです。この展覧会は、伝統的な博物館のキュレーションのほとんどを打ち破っています。ラベルのような必要であったものを排除し、通常は博物館には入れない湿気、振動(そしてシロアリでさえも。この話はまた別の機会に。)を導入しました。
「展覧会」の構築を目指さずに、ユーカリノキの森林を作ったのです。さらにその森林に入ると、彼らの言葉を使った意味のシステムを通じて導くヨルングの声が誘導します。当博物館との協力でマルカプロジェクトが制作した見事な映画の前で、リラックスできる素晴らしいスポットがあります。
イダキとは振動に関することです。単に聞くのではなく、感じることが必要な楽器です。雷鳴ボードを作ったのはそのためです。雷鳴ボードは、展示会のサウンドトラックの振動を足から上に向かって送るため、体、そして心で、振動が数える音楽を感じ取ることができる反響するフロアーです。
左の画像: スティーヴン・ゴールドスミス、カーナの長老
イダキとは?
ディジュリドゥ、すなわち「ドローンパイプ」は、カーペンタリア湾からアーネムランドを通り、キンバリーまで広がるオーストラリア東北部の地域で伝統的に使用されていました。「ディジュリドゥ」という言葉は、土着の言葉ではなく、楽器自体のブーンという音が由来の造語です。
アーネムランド北東部ヨルング族の人々にとっては、この楽器はイダキ(yidaki)と言う名で一般的には知られていますが、その中には、他の一派が有する別の名前(dhadalal、djungurriny、dhumarrなど)を持つ様々な種類の楽器があります。この楽器は、アーネムランド西部の一派にとってはmogo、ダーウィンエリアのララキア族の人々にとってはmamiylimとして知られています。現在では、オーストラリア全域のアボリジニの人々は広く、「ディジュリドゥ」を使用しています。
当展覧会ではこれらの伝統を認識していますが、イダキのストーリーに焦点を当てています。
イダキは、シロアリが繁殖し、木の幹がくり貫かれたユーカリノキの森林に由来します。ヨルング族のアーティストが、森林の中を歩き、斧の柄で幹をたたき、その空洞化途中のイダキが立てる音を聞く姿に出会うでしょう。
一見してシンプルに見える楽器は、何年もの修行と、複雑なテクニックの修練が必要となります。唇の振動、周期的な呼吸、多様な演奏上の圧力、頬の緊張、横隔膜の調節、舌の位置、および声の使用に関するテクニックなどです。
生まれながら持つ権利、訓練と情熱を通じて、ヨルング族は、イダキの作製と演奏のマスターであり、彼らの質の高い楽器と複雑な演奏スタイルにおいては国際的に称賛されています。
私たちの展覧会の森林で聞くイダキの音とストーリーは、ジャルー氏、ラリー・グルウィウィ氏、およびジャルー氏の孫息子、ケヴィン・ダカーイ君が奏で、語っています。
コレクションを目覚めさせる
「イダキは私たちの文化のシンボルのようなものですが、それ以上です。イダキは私たちの魂でもあります。」イダキは私たちの息であり、私たちの声です。」 ラリー・グルウィウィ
南オーストラリア博物館は、イダキとディジュリドゥに関する世界最大の公共コレクションの1つを大切にしています。ほとんどが何年間も博物館の棚で眠ったような状態です。私たちは、これらの素晴らしい楽器に生命を吹き込み、音楽を取り戻したい、そして彼ら自身の声で語るのを聞きたいと願っていました。
ヨルング族はイダキの調律には、数日間、川やよどみにこれを浸ける方法をとっています。私たちはそのようにはできませんでした!しかし別の方法を見つけました。2016年、年間を通じて注意深くこれらの楽器の木に潤いを取り戻しました。これは演奏中におわかりいただけるでしょう。
100歳を優に超える楽器は壊れやすい性質があるために、博物館のコレクション管理者は、ディジュリドゥに湿気を取り戻すことに特別な注意を払いました。楽器に損傷やゆがみが発生しないように、カスタムの加湿器を作りました。
この過程の成功をご体験いただくために、力強い伝統の将来を担う、ジャルー・グルウィウィ氏の11歳の孫息子、ケヴィン・ダカーイ君による1世紀以上も奏でられなかった楽器の演奏をご覧ください。
左の画像: ケヴィン・ダカーイ、ジャルー・グルウィウィの孫息子
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